- 店舗DXは、AIやIoTなどのデジタル技術を活用して業務効率化、顧客満足度向上、売上アップを実現する変革である
- 導入によって、「業務効率化・生産性の向上」「顧客満足度の向上」「新たな価値創出と売上アップ」といったメリットが得られる
- 成功させるためには、目的の明確化、スモールスタート、現場スタッフとの協同がポイント
人手不足、売上の伸び悩み、競合の増加など、店舗経営の様々な課題を解決する鍵として、「店舗DX」が注目されています。店舗運用にデジタル技術を導入することで、顧客満足度の向上、業務効率化、コスト削減などを実現し、市場での競争優位性を高めることが可能です。
この記事では、店舗DXの目的や必要性といった基本情報から、効果的な施策、導入メリット、実施する上での課題、成果獲得のポイントまで分かりやすく解説します。
「店舗DX」とは? 定義と目的
「店舗DX(デジタルトランスフォーメーション)」とは、AIやIoTなどのデジタル技術を活用し、店舗のビジネスモデルや運営方法を変革することです。単にレジを自動化するような「デジタル化」とは異なり、デジタル技術を使って顧客体験の向上と業務効率化を同時に実現し、新しい価値を生み出すことを目指します。
その本質は、データの活用にあります。バラバラに存在するPOSや在庫管理などのデータを統合し、リアルタイムで分析することで、顧客の行動やニーズを深く理解できるようになります。このデータを基に、パーソナルな接客や効率的な在庫管理を実現し、顧客満足度の向上と生産性向上を図ることが店舗DXの最終的な目的です。
つまり、ツールを導入するだけでなく、それらを連携させ集めたデータを経営に活かすことが、投資対効果を最大化し、店舗DXを成功させる鍵となります。
店舗DXが求められる背景
店舗DXが求められる背景には、主に3つの大きな要因があります。
消費者行動の変化
ECサイトの普及により、消費者はいつでもどこでも商品を購入できるようになりました。実店舗は、単に商品を売る場ではなく、特別な「体験」を提供する場へと役割を変えつつあります。
慢性的な人手不足
少子高齢化が進む日本では、多くの小売業や飲食業が人手不足に悩んでいます。デジタル技術を活用して業務を自動化・効率化し、少ない人数でも店舗を円滑に運営できる体制を構築することが急務となっています。
デジタル化の加速と競合との差別化
競合他社もデジタル技術を活用し、顧客一人ひとりに合わせたサービスを展開しています。お客様に選ばれ続けるためには、同様にデータを活用し、他店にはない価値を提供していく必要があります。
店舗DXの導入のメリット

店舗DXの導入によって得られるメリットは多岐にわたりますが、これらは大きく「業務効率化・生産性の向上」「顧客満足度の向上」「新たな価値創出と売上アップ」という3つの柱に分類できます。
3つの柱に沿って、店舗DXを実施するメリットを詳しく解説していきます。
業務効率化・生産性の向上
店舗DXがもたらす最大のメリットは、業務の効率化と生産性の向上です。これまで人の手に頼っていた注文、会計、在庫管理といった定型業務をデジタル技術で自動化することで、作業時間そのものを短縮し、人的ミスも根本から減らすことができます。
例えば、飲食店でセルフオーダー端末を導入すればスタッフは注文を取る作業から解放され、小売店ではセルフレジが会計業務を担いレジ待ちの列を解消します。
このように店舗DXは、日々の雑務からスタッフを解放し、より創造的で付加価値の高い「接客」などの仕事に集中できる環境を作り出すことで、店舗全体の生産性を飛躍的に高めることが可能です。
顧客満足度の向上
店舗DXの推進は、顧客満足度の向上に直接つながります。その理由は、デジタル技術がお客様の感じる「不便」や「ストレス」を取り除き、スムーズで快適な買い物体験を提供できるからです。
例えば、キャッシュレス決済やセルフレジは、会計の待ち時間を劇的に短縮し、ECサイトのAIチャットボットは深夜でもお客様の疑問をすぐに解決します。このように「待たせない」「迷わせない」といったスマートな購買体験は、顧客満足度を高め、「またこの店に来たい」と思わせる強力な動機付けとなります。
新たな顧客体験の創出と売上アップ
店舗DXは、顧客一人ひとりに合わせた新たな体験を創出し、結果として店舗の売上アップを実現します。
これまで把握しきれなかった顧客の購買データや行動データを活用し、画一的ではない「特別なサービス」を提供できるようになるからです。
例えば、顧客の購入履歴から興味を持ちそうな新商品の情報を公式アプリでお知らせしたり、誕生月に特別な割引クーポンを配信したりすることが可能です。このようにデータに基づいたパーソナルなアプローチは、顧客との絆を深めながら、着実な売上向上とブランド価値の向上に貢献します。
店舗DXの代表的な施策例

店舗DXには、主に「オフライン」と「オンライン」の2つの施策があります。それぞれどのような取り組みがあるのか、詳しく見ていきましょう。
【オフライン】店舗DXの代表的な施策
オフラインの施策とは、おもに実店舗での施策を指します。キャッシュレス決済やセルフレジの導入など、店舗運営に関するさまざまな業務をデジタル化し、顧客サービスの向上や店舗業務の効率化を目指します。代表的な施策は、以下の通りです。
非対面でのオーダー
テーブル備え付けのセルフオーダー端末や、顧客自身のスマートフォンから注文できるようにする施策です。スタッフを呼んだり待ったりする手間がなく、顧客はベストなタイミングで注文ができます。ピーク時のスタッフ不足やオーダーミスといった問題も解決につながるでしょう。
セルフレジの導入
セルフレジとは、顧客自身で精算を行うレジのこと。レジの回転率向上、釣り銭ミスの防止、人件費の軽減などが期待できます。店舗側のレジ業務が軽減されるため、人材不足解消にも有効な手段となるでしょう。
キャッシュレス決済対応
現金を使わずに、クレジットカードやスマホ(バーコード決済)、電子マネーで支払えるようにする施策です。カードやスマホを決済端末にかざすだけなので、スピーディーに会計が完了します。ピーク時におけるレジ混雑の緩和にも効果を期待できるでしょう。
事前注文受付
事前にWebで注文を受け付けることで、顧客の来店時にお待たせをすることなく商品を渡すことができます。顧客が来店する日時が分かっていれば、ギフトラッピングやカスタムオーダーにも余裕をもって対応が可能です。顧客も自分のペースでゆっくりと注文を検討し、希望するタイミングで商品を受け取れるので、顧客の利便性向上にもつながるでしょう。
顧客情報、会員カードの電子化
顧客リストのデジタル化や会員証アプリの導入によって、顧客情報の一元管理が実現します。データベース化することで、販売促進のための分析や属性別の販促施策に活用することも可能になります。
自動売上集計システム
レジの売上データをタイムリーに自動集計し、売上状況を表やグラフで表示するシステムです。時間帯別の売上や客数、売れ筋商品など、詳細な情報まで確認できるシステムもあります。日報の作成や売上分析にも活用できるでしょう。
クラウドを利用した勤怠管理
クラウド型の勤怠管理システムを導入することで、スタッフ間で最新のシフトを共有できます。タイムカードの集計や給与計算といった手間のかかる作業を自動化できるため、勤怠管理の効率化にもつながります。
【オンライン】店舗DXの代表的な施策
店舗DXにおけるオンラインの施策とは、おもに店舗体験のデジタル化を指します。インターネットを介して、顧客に店舗の疑似体験を提供します。代表的な施策は以下の通りです。
実店舗のEC化
実店舗のEC化とは、インターネット上で商品が売買できるよう、Webサイトやネットショップを開設することです。顧客はインターネット環境さえあれば、いつでもどこからでも簡単に商品が購入できるようになります。
オンライン接客
ビデオ通話やチャットツールを使って、インターネット上で接客を行います。商品の購入を検討している顧客に対し、リアルタイムで説明やアドバイスが可能です。お互いの顔が見えるビデオ通話なら、対面接客のようなきめ細かなコミュニケーションが期待できるでしょう。
バーチャル店舗
バーチャル店舗とは、仮想空間に店舗を再現したものです。顧客は店内を360度見渡したり、気になる商品を様々な角度からチェックして、自由に見て回ることができます。AIチャットボットなど、Web接客ツールの併用も可能です。
店舗DXの導入における課題と注意点

店舗DXを実施する上での課題や注意点を紹介します。
導入から成果獲得まで時間がかかる
店舗DXの導入から成果獲得までには、ある程度の時間を要します。まずは、店舗に必要なDX化が何であるのかを明確にし、適切な施策やツールを検討するところからスタートしなければなりません。
また、導入後は、DX化を定着させた上で成果を確認する必要があります。
導入・運用コストが発生する
店舗DX化には、導入コストや維持管理費がかかります。店舗の経営状況を踏まえた上で、費用対効果の高い施策から戦略的に進めていくことが重要です。
店舗DXにかけられる予算が少ない場合は、販促活動のデジタル化や業務管理アプリの導入など、低コストで実施できる施策に目を向けてみるといいでしょう。
人材育成・組織変革が必要
店舗DXのスムーズな導入には、現場スタッフの理解と協力が欠かせません。システムの操作方法や業務フローの変更について、丁寧に周知することが大切です。
事前に研修を行うなどして、DX化の目的や機器の使い方を分かりやすく説明する必要があります。
店舗DXの事例
実際に店舗DXに成功している企業の事例を見ていきましょう。国内外でDXを積極的に推進しているユニクロ、スターバックス、三越伊勢丹の取り組みをご紹介します。
スターバックス(顧客体験の向上)
スターバックスは、モバイルオーダー&ペイ(Mobile Order & Pay)を導入しています。
このサービスでは、利用者がスマートフォンアプリから事前に商品を選び、決済を完了させることで、店頭でレジに並ぶことなくスムーズに商品を受け取れます。顧客は待ち時間を大幅に短縮でき、忙しい時間でも手軽にスターバックスを利用できるようになりました。
注文から決済までがアプリで完結するため、レジ業務が効率化され、注文ミスが減少します。特に混雑するピーク時には、スタッフがスムーズに商品を提供できる体制が整い、顧客体験の向上と同時に店舗の生産性も高まっています。この取り組みは、デジタル技術を活用して顧客の利便性を高めながら、店舗運営の課題を解決した好事例です。
ユニクロ(顧客情報と在庫情報の一元管理)
ユニクロは、店舗とオンラインストアを統合する「OMO(Online Merges with Offline)」戦略を通じて、顧客体験と業務効率を両立しています。
その中心にあるのが、RFIDタグと自社アプリです。すべての商品にRFIDタグを導入し、ECサイトやアプリと店舗の在庫情報をリアルタイムで連携。これにより、顧客はアプリ上で近隣店舗の在庫状況を正確に確認できるため、「せっかく来店したのに商品が売り切れていた」という不満を解消し、スムーズな買い物体験を提供しています。
また、アプリには顧客の購入履歴やサイズ情報が蓄積されるため、一人ひとりに合わせた商品のおすすめや、限定クーポンの配信も可能になります。これにより、顧客のエンゲージメントが向上し、再来店や購入機会の創出にもつながっています。
三越伊勢丹(仮想空間での顧客体験提供)
三越伊勢丹は、リアル店舗のDXだけでなく、仮想空間を活用した新たな顧客体験を創出しています。その代表例が、スマートフォンで楽しめる仮想空間サービス「REV WORLDS」です。
このサービスでは、利用者はアバターを操作して、まるで本物の伊勢丹新宿店にいるかのようにバーチャル空間を自由に歩き回り、買い物を楽しめます。さらに、販売員のアバターによる接客を受けることも可能で、実際に会話しながら商品を選ぶという、これまでにないパーソナルな体験を提供しています。
この取り組みは、単にオンラインで商品を販売するだけでなく、リアル店舗に足を運ぶ機会が少ない若年層や、遠方に住む顧客にも特別な買い物体験を提供することを目的としています。時間や場所の制約を超えた新たな接点を生み出すことで、新たな顧客層を獲得し、ブランドへの愛着を高めることに成功しています。
店舗DXを成功させるための4つのポイント

DXプロジェクトを成功させるための共通点は、「目的の明確化」「段階的な導入と効果測定」「経営層と現場の連携」です。課題や優先度が明らかになったら、店舗DXを推進する上で押さえておきたいポイントを紹介します。
業務内容やフローを明確化する
店舗DXの第一歩として、まずは業務内容を洗い出し、フローを明確化することから始めましょう。業務全体をチェックして、無駄な作業や非効率な人材配置があれば、適切な業務プロセスに計画します。
業務内容やフローを最適化した上で、デジタル化すべき業務の選定を行いましょう。
スモールスタートでリスクを回避する
多くの店舗DXツールは、設備投資、システム導入費、人材育成費など、高額な初期コストがかかる点が大きな障壁となります。まずは、低予算で小規模に展開し、段階的に規模を拡大していきましょう。
例えば初期費用を抑えるためには、機器やシステムを購入するのではなく、リース契約やサブスクリプション型のシステムを利用する手法が有効です 。これにより、導入のハードルを下げ、リスクを最小限に抑えながらDXを推進できます。
現場スタッフを巻き込み、理解を促す
新しいデジタルツールを導入しても、それを使いこなせる人材がいなければ、効果を十分に引き出すことはできません 。また、従業員が新しいシステムを覚えることに負担を感じ、モチベーションの低下に繋がる可能性もあります 。
そのため、導入目的やシステムの操作方法を丁寧に説明し、しっかり理解してもらう必要があります。スタッフへの研修とトレーニングを計画に含めておきましょう 。
また、直感的に操作できるUI/UXに優れたツールを選定することで、従業員の心理的なハードルを下げ、スムーズな定着につながります。
費用対効果を検証し、改善を繰り返す
導入した施策が定着したら、費用対効果の算出と検証を行いましょう。このまま運用を継続するべきか否かの判断材料になります。かけた費用に見合った結果が出ていれば、店舗DXの施策は成功です。その反対に、費用対効果が見込めない場合は、施策の見直しや再検討を行わなければなりません。
施策の効果がなければ無駄なコストになってしまうので、費用対効果の検証は必ず行いましょう。
店舗DXを実現するツールやサービス

店舗DXの実現には様々なツールが活用されます。これらは大きく、「店舗運営を効率化するツール」と「顧客体験を向上させ、売上を拡大するツール」の2つに分けられます。自社の課題に合わせて、最適なツールを選びましょう。
店舗運営効率化ツール
日々の店舗オペレーションを改善し、生産性を向上が期待できるツールを、課題別に分類しました。
| 課題 | 対応するシステムのジャンル | 主な機能 | 導入効果/メリット |
|---|---|---|---|
| レジ業務の効率化 ・会計ミス削減 ・レジ待ち時間短縮 | POSレジ モバイルPOS セルフレジ 無人決済システム キャッシュレス決済端末 など |
会計、売上集計、在庫・顧客管理連携、多様な決済対応 | 従業員負担軽減 、ヒューマンエラー防止 、顧客満足度向上 |
| 在庫の最適化 ・棚卸し業務の効率化 | 在庫管理システム 自動発注システム RFID/ICタグ など |
リアルタイム在庫管理、需要予測、自動発注、棚卸し作業効率化 | 機会損失・廃棄ロス削減 、コスト削減 、作業時間短縮 |
| 労働力管理の最適化 シフト作成の効率化 | シフト管理システム 勤怠管理システム など |
シフト自動作成、人件費・売上予測に基づく最適化、勤怠データ連携 | 従業員の負担軽減 、人件費削減 、労働環境改善 |
| 次世代型店舗の実現 ・無人・省人化店舗の実現 | スマートストア 無人決済システム AIカメラ など |
ウォークスルー決済、非接触決済、店内動線分析、遠隔監視 | 人件費削減 、非接触ニーズ対応 、データに基づく店舗改善 |
顧客体験向上・売上拡大ツール
顧客との関係を深め、売上拡大につながるツールを課題別に分類しました。
| 課題 | 対応するシステムのジャンル | 主な機能 | 導入効果/メリット |
|---|---|---|---|
| 顧客との関係強化・個別販促の実施 | CRM/CDP AIカメラ・人流分析 リテールメディア など |
顧客情報一元管理、購買履歴分析、パーソナライズされた販促配信、店内動線分析 | 顧客満足度向上 、リピート率向上 、新規顧客獲得 、新たな収益源の創出 |
| オンラインとリアル融合・商圏の拡大 | モバイルオーダー オンライン接客システム バーチャルストア 予約システムなど など |
事前注文・決済、ECサイト・実店舗の連携、ビデオ通話・チャットでの接客、仮想空間での商品展示 | 待ち時間の削減 、顧客単価向上 、専門性の高い接客 、場所の制約解消と商圏拡大 |
| 店舗空間の演出 ・情報発信の効率化・購買意欲の向上 | デジタルサイネージ スマートミラー など |
映像・動画による情報配信、遠隔でのコンテンツ更新、バーチャルフィッティング | 視認性の高い情報発信 、業務効率化 、新たな顧客体験提供 |
| マーケティング・販促物の自動生成 ・需要予測の高度化 | 生成AI など | テキスト・画像生成、データ分析、顧客アンケート分析、AIアバター接客 | 業務効率化 、パーソナライズの高度化 、顧客の声を迅速に分析 |
店舗DXで業務効率化と顧客満足度の向上を
この記事では、店舗DXの必要性や効果的な施策、導入メリット、成果獲得のためのポイントなど、店舗DXに関する情報を幅広く紹介しました。店舗DXには様々な施策があり、施策を実施するためのツールも数多く存在します。
まずは、店舗に必要な施策を明確にするところから、じっくり取り組んでいくことが大切です。店舗に最適なデジタル技術を導入して、業務効率化や顧客満足度の向上を実現させましょう。