自動車整備業界は市場拡大が続いていますが、それを支える現場の負荷は重くなっています。
採用や育成の強化だけでは、短期的に解消しづらい構造的な課題に対して、比較的着手しやすい打ち手として注目されているのが「受付・予約のデジタル化」です。
本記事では、市場拡大・整備士不足・IT化という3つの現実を、業界データとともに整理します。

この記事の3行まとめ
  • 整備士1人あたりの業務負荷は年々増加している
  • 採用・育成の強化だけでは短期解決が難しい構造課題
  • 受付・予約のデジタル化は少ない投資で着手できる

データで見る2025年の整備市場|拡大する売上と広がる整備士不足の影響

JASPA(日本自動車整備振興会連合会)の「令和6年度自動車特定整備業実態調査」によると、総整備売上高は6兆2,561億円でした。前年度比5.9%増となり、3年連続の増加となりました。
事業場数も92,384事業場と3年連続で増えており、市場全体としては拡大が続いています。

令和6年度 自動車特定整備業実態調査結果の概要について

出典:令和6年度 自動車特定整備業実態調査結果の概要について  「総整備売上高 」

出典:令和6年度 自動車特定整備業実態調査結果の概要について  「事業場数 」

出典:令和6年度 自動車特定整備業実態調査結果の概要について  「事業場数 」

一方で、フォーバルと日本自動車整備商工組合連合会が実施した「自動車整備業界調査レポート2024」では、業界見通しに関する調査結果も示されています。
今後の業界見通しについて「悪い」「やや悪い」と回答した経営者は68.8%に上りました。
売上のデータだけを見れば市場は好調に見えますが、、現場では7割近くの経営者が先行きを悲観している。ここに、整備業界が抱える構造的な矛盾が表れています。

整備要員1人あたり売上の増加が示すもの

JASPAの同調査では、整備要員1人あたりの年間整備売上高が1,562万7,000円となり、前年度比5.2%増加したことも示されています。この増加には、部品代や工賃といった単価の上昇(物価高の影響)が一定程度含まれていると考えられます。

一方で、事業場数や売上の伸びに対して、人員の増加は追いついていない状況もうかがえます。

単価上昇だけでなく、既存の整備要員1人あたりの負荷が高まっている面も否定できません。売上拡大の裏側では、単価上昇と業務量の増加という複数の要因が重なっている、という見方が実態に近いと考えられます。

この状況が続けば、現場のキャパシティはいずれ限界に近づいていく可能性があります。売上や受注件数を増やすための営業努力だけでなく、限られた人員で効率的に稼働を組み立てる工夫も必要です。

稼働管理という生産性側の視点は、今後さらに重要な経営課題になっていきます。

整備士不足の実態──数字で見る担い手問題

整備士不足は、感覚的な課題ではなく、複数の調査データからも裏付けられています。

厚生労働省の職業情報提供サイト(job tag)によると、自動車整備士の有効求人倍率(令和6年度・ハローワーク求人統計データ)は5.45倍でした。採用の難易度が非常に高い業種であることが数字からも見えてきます。

野村総合研究所(NRI)が2025年に公表した分析をもとに、自動車整備士の有効求人倍率を他業種と比較すると、次のとおりです。

職種 有効求人倍率(2023年度)
自動車整備士 5.28倍
介護サービス職 3.9倍
接客・給仕職 2.9倍
自動車運転従事者 2.6倍

そのうえで、「人材不足が問題となっている他業界と比較しても、自動車整備業界の人手不足が深刻な状態にあることがわかります」と指摘しています。

整備士数の推移についても、正確な理解が必要です。JASPAの「令和6年度自動車特定整備業実態調査」をもとに、整備士数・年齢構成の推移を整理すると次のとおりです。

指標 数値
整備士数(令和6年度) 333,047人(前年度比:1,792人増/+0.5%)
(平成25年度比:ー約1万人減)
平均年齢 47.4歳(専業整備士:52.8歳)
整備士保有率 82.8%(ピーク時:平成20年度87.2%)

長期的には減少傾向が続くなかで、直近では4年ぶりに微増したというのが実情です。次世代の担い手不足も踏まえると、今後の供給力には不安が残ります。

後継者問題が重なる構造

整備士不足に加えて、経営の承継という課題も同時進行しています。

フォーバルの調査によれば、後継者が「いない・決まっていない」と回答した経営者は49.7%と、全体の5割近くに上りました。この結果は2020年の同種調査(47.7%)と近い水準です。

「整備業界での後継者不在については以前から問題視されていたものの、今もなお深刻な課題として経営者を悩ませていることがうかがえる」とフォーバルも分析しています。

「担い手の不足」と「経営の承継問題」が同時に進んでいることは、整備業界特有の複合的な課題といえるでしょう。現場の人手が足りないうえに、次の経営を担う人材の見通しも立っていないという状況では、大きな投資判断や体制の見直しに時間をかけることが難しくなります。

だからこそ、限られたリソースの中で、すぐに効果を実感しやすい改善から着手することの重要性が増していると考えられるでしょう。

整備業界でIT化が進みにくい背景

なぜ整備業界ではIT化が進みにくいのでしょうか。

フォーバルの調査によると、人手不足の認識とIT投資行動には次のようなギャップがあります。

項目 割合
人手不足を認識している経営者 71.8%
IT導入補助金を活用した経営者 15.9%
(参考)2020年時点の人手不足認識(「不足」+「やや不足」) 約50%

人手不足の認識は2020年時点より強まっているにもかかわらず、投資行動はそれに追いついていない状況がうかがえます。これは深刻な人手不足を抱えながら、解決策の一つであるはずのIT投資には十分に手が伸びていないことを示しています。

では、IT化が進みにくい背景には何があるのでしょうか。中小企業庁「中小企業白書」(平成30年版)によると、中小企業がIT導入・利用を進める際の課題は次のとおりです。

IT導入・利用における課題 割合
コストが負担できない 約30%
導入効果が分からない・評価できない 約30%
従業員がITを使いこなせない 約20%

これは整備業界に固有の調査ではなく、業種を問わない中小企業全体を対象にした調査です。ただし、整備工場の多くも中小企業であることを踏まえると、同様の傾向が当てはまる可能性は高いと考えられます。

つまり、投資に見合う効果が見えにくいことと、現場にITを使いこなせる人材が少ないことが要因です。これらが、整備業界を含む多くの中小企業でIT化が進みにくい背景になっていると考えられます。

整備業界のITソリューション全体像を整理する

整備業界向けのITソリューションは、大きく4つのカテゴリーに整理できます。それぞれ導入のハードルと即効性が異なるため、自社の状況に応じて優先順位をつけることが重要です。

カテゴリー 主な内容・代表例 導入ハードル 即効性
(1)基幹業務支援 顧客管理・伝票・書類・部品提案システムなど 中〜高
(2)診断・技術支援 故障事例データベース・スキャンツールなど
(3)新規チャネル獲得 出張整備プラットフォーム・ポータルサイトなど 低〜中
(4)予約・受付自動化 ウェブ予約システム・AI電話応対など

このように整理すると、(4)の「予約・受付自動化」は、他の3カテゴリーに比べて導入ハードルが低く、即効性が高い領域であることがわかります。

なぜ「予約・受付」から着手すべきか

予約・受付のデジタル化には、いくつかの利点が考えられます。まず、整備士の本来業務である整備・点検作業を、電話対応から切り離すことができる点です。電話が鳴るたびに手を止めて対応する必要がなくなれば、現場の作業効率の向上も見込めます。

また、作業種別ごとに所要時間を設定し、ピット別の枠を管理することで、現場の稼働の最適化を期待できるでしょう。タイヤ交換シーズンのような繁忙期についても、予約を分散させることで、電話対応の集中や現場の混乱を緩和することにもつながります。

さらに、(4)のカテゴリーは(1)〜(3)と比べて、初期投資が比較的限定的であることが多く、他のIT投資と比べて導入判断のハードルが低い領域といえるでしょう。

診断機器の導入や基幹システムの入れ替えのような大きな投資判断を必要とせずに、業務効率化の効果を早期に確認できる点も特徴です。限られた予算とリソースの中で優先順位を検討する経営者にとって、有力な選択肢になり得ると考えられます。

受付業務の実態|当社に寄せられる相談から見えてきたこと

当社(リザーブリンク)が提供するChoiceRESERVE(チョイスリザーブ)には、整備工場からの予約管理に関するご相談が多く寄せられています。

そのなかで最も多いのは「電話受付とExcel管理からの脱却」を目的としたご相談です。次いで多いのは、タイヤ交換シーズンなど繁忙期における予約集中や管理の破綻に関するご相談です。

多拠点・フランチャイズ展開における予約の一元管理ニーズや、既存ツールのセキュリティ懸念・動作速度の問題からの乗り換え検討なども挙げられます。

これらのご相談から見えてくるのは、「現状に大きな不満はないものの、改善できる余地がある」と感じている整備工場が少なくないという傾向です。これは、IT化の遅れの背景で触れた「現行のままで不満がない」という心理的なハードルと重なる部分です。明確な不満がないからこそ、着手のきっかけを見つけにくいという構造があると考えられます。

言い換えれば、多くの整備工場では「今すぐ困っているわけではないが、繁忙期や拠点が増えるタイミングで限界が見えてくる」という段階にあるケースが多いということです。だからこそ、問題が深刻化する前の段階で、受付の仕組みを見直しておくことは主要な業務を優先的に進める上で、選択肢の一つになるでしょう。

整備工場が2026年以降に備えて、今からできること

ここまで見てきたデータを整理すると、以下の3点が浮かび上がります。

  1. 市場全体は拡大している一方で、整備要員1人あたりの負荷は増加を続けている
  2. 採用や育成の強化だけでは、中短期的にこの構造を解決することは難しい状況にある
  3. IT化への最初の一歩として、受付・予約のデジタル化は、他の投資領域と比べて導入ハードルが低い選択肢と考えられる

これらはいずれも、一つの投資や一回の取り組みで解決できる課題ではなく、中長期的に向き合っていく必要がある構造的な課題です。だからこそ、大きな体制転換を待つのではなく、今の体制のままで着手できる改善から始めることに意味があります。